二度の災難に遭遇した棲み家

 道路に面し、オープンに取り付けられた内開きの玄関ドアを入ると高さ8.0mの吹き抜けが設けられています。それは建物の中央に位置しており、建物を支える地盤から建物を覆う屋根まで貫いた構造です。吹き抜けに取り付くように一階よりスキップした玄関、居間、一階のダイニングルーム、中二階の和室、二階の寝室、個室が配されて、それはこの棲み家の光と音を伝達する装置です。







■左の画像
玄関部より吹き抜けの見上げ。黒っぽい部分が中二階の踊り場で和室の入口。南面に面した高窓から太陽光が降り注ぎます。
■右の画像
二階踊り場より中二階和室、玄関上部を見下ろす。 天井、壁共にシナ合板ピーリング張。 中二階和室障子は引き違い、横繁両面組子桟

( 玄関アプローチと吹き抜けの関係 )
 道路から玄関までのアプローチは可能な限り長く取り、様々な工夫をしますがここでは玄関ドアがダイレクトに道路に面します。短いアプローチに反し、建物中央に位置した吹き抜けは充分な高さと奥行きを持ち、様々な生活のドラマと光や音を伝える機能を持ちあせています。玄関までの長いアプローチは客人も家族にとっても出迎える人のことを考えたり、建物の各部を眺めたりて玄関までたどり着きます。ここではそれらの機能を吹き抜けに求めてます。




( 前庭の機能 )
 間取りの計画は敷地の条件に合わせ庭を配し、その庭の機能に沿った部屋を配する方法で計画してます。テラス戸で出入り可能な浴室の前庭、家事室(予備室)に面したサービスヤードは物干しと物置置き場となり、主庭はダイニングルームから出入りします。玄関前庭はカーポート兼用です。





居間




■ダイニングルームより居間、吹き抜け部を見る。可動壁をスライドさせた二例

( 壁を可動させる )
 ダイニングルームと居間、吹き抜け部の境に幅2m高さ2.4mの格子ガラスの壁を設けます。機能的には建具の造作です。吹き抜け部との境に可動させるとダイニングルームと居間は連続し家族団らんや大勢の客人を迎え入れる空間になります。スキップした床の高さと仕上げの材の変化は人の動きや視線に刺激を与え、連続して貼られたラワン小幅板張りの天井は強い空間の繋がりを感じさせます。
一方、居間との境に可動壁を固定すれば居間は落ち着いた談話室や応接間となり、吹き抜け部に開放されたダイニングルームは玄関部や中二階、二階で発する音を捉え、空間に一体感を与えてくれます。大きな吹き抜けとこの可動壁がこの棲み家の快適さを決める大きな機能となります。



 建築概要

建築を手掛けるとき建築屋はそれぞれの専門分野でより安全で快適な建築を心がけ、ある時は悩み、心配を重ねながら建築の生涯を見守り続けることになります。設計者の場合、依頼主とその家族と顔を合わせ、住まいに対する希望や考え方を慎重に咀嚼し、設計に取り組むことになりますが設計〜施工〜維持管理の全ての過程に於いて最も重要な課題が安全性です。内外部の設えは転んだり、落下したり、すり傷など無いように詳細の設計を進め、基本となる構造・構法の検討は地震や暴風雨、火災等による災害に耐えうるものとし、最悪の場合でも最小限の被害で済むように設計します。この棲み家は予想を遙かに越えた二度の災害を経験しました。一度目は築後(昭和52年竣工)5年目頃だったと思いますが全く想像もしなかった水害でした。
敷地は平野部に位置し、500m程西に整備された大きな河川があり、下水と雨水の処理は道路埋設の本管で処理されます。後背地は4〜5km程北に小高い丘陵地が広がっていました。計画、建設時は緑に覆われていた丘陵地はその後急速な宅地開発が進みました。丘陵地に降り注いだ豪雨は河川への排水処理能力を超え、地表に溢れ出、傾斜地を流れ平野部まで到達します。同じように平野部に降り注ぐ雨と重なりその場での水量は予想をはるかに超えた水量となり ました。幸いにも一階床までの到達は避けられましたが一階よりスキップした玄関と居間は水浸しになりました。二度目が阪神・淡路大震災(1995年1月17日am5:46)でした。一定の基準以上の仕様で設計・施工された建築物は地盤の陥没や亀裂、流出等がないかぎり倒壊することはまれで、被害の殆どが二次災害と云われる火災や落下物によるものです。安否の連絡も着かず、以前発生した水害の事が頭をよぎり、地盤の変化を心配しましたが地震発生から12時間後、無事が分かり胸を撫で下ろしました。床置きのピアノ、サイドボード等は部屋を横切るように吹き飛ばされましたが可能な限り設置した造り付けの収納が幸いし、転倒は勿論のこと収納品の飛び出しも防いでくれました。二度の災難は家財道具や調度品の被害はありましたが建物の機能、性能に大きく影響する事がなく幸いでした。

 災難に遭われ尊い命を奪われた方々を偲び、ここに改めて心よりご冥福をお祈り申し上げます。
 またこの棲み家の住まい手を含め震災復興に努められたられた方々の勇気と労苦に感謝致します。

 Link(参照)
 阪神・淡路大震災の主な被害の概要(兵庫県)
 阪神大震災を調べる(神戸大学ニュースネット)


所在:兵庫県宝塚
敷地面積 : 200.0u  1階床面積 : 81.9u(24.8坪)  2階床面積 : 68.9(20.8坪)  延べ床面積 : 150.8u(45.6坪)
構造 : 木造軸組工法4層2階建て
屋根 : カラーベストコロニアル葺  外壁:モルタル下地リシンガン吹き仕上げ、一部ラワン小巾板貼り
間取り : 1階(居間 食堂 台所 ユーティリティ 予備室(和室) 玄関 洗面 トイレ 浴室) 中二階(和室)  2階(寝室 個室A 個室B 納戸)

  1F PLAN ←参照



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