地下に玄関を構えた棲み家----



住まいに玄関は付きものです。 玄関は、間取りの中でも かなり重要な位置を占めており、社会との接点であり棲み手の生活パター ンを決めてしまう場所でもあります。
元来、玄関の唯一の目的は上役を迎入れるのみの入り口でした。 土間と敷台に取り次ぎの間、その奥に座敷があり、そこには下駄箱も傘立ても 無く、日頃は家族の出入り御法度の間でした。
ひとたび大切な客人を迎入れるとなると、ひっそりとしていた玄関は見違える ように晴れがましい姿を見せます。門から玄関までの飛び石は水で綺麗に洗い 落とされ、敷台には赤い毛氈が敷かれ、目出度い絵柄の屏風に生け花が添えら れて、台所では上等のお茶にお菓子の準備。そんな光景が、つい最近まで見ら れました。


四層構造の躍動感
この住まいの構造は、四層2階建てとなっています。地階は玄関、1階は生活の基盤となる居間、階段の踊り場に続いた中二階、 2階に二部屋の個室。 必然的に階段が中心に置かれます。階段は、自ずからこの棲み家の生活リズム を造り出します。二帖の中二階は、生活リズムを造り出 すその時々の主役の居場所になります。家族が出払った週日の昼間は主婦の家事の場であったり、帰宅した子供はそこ でおやつを頂き、休日は旦那がのんびりと描きかけの絵に筆を入れる場になる こともあります。

◆ 玄関迄の地下通路
地下に玄関。少し抵抗があります。薄暗いイメージがありますが、 全くの地下では無く、いわば半地下の構造です。
高窓式に東南の二面に採光部 を設け、通風は一階部分との接点を挌子で間仕切る事で確保されます。そんな玄関の真上に中二階は位置します。
道路と宅地の2m余りの高低差を利用し、道路からドアまでのアプローチを地下のトンネルが繋ぎ、玄関にたどり着きます。客人は、どんな面持ちで訪れてくれるでしょう。 それは、まるで母親の胎内に戻る安堵感を抱く人もいるでしょう。 怖々とドアまでたどり着く人、入るのをあきらめて他の入り口を探す人、入ら ずに帰ってしまう人・・・・・ 日頃、ご近所さんや家族は、別に設けたコンクリート階段を使い、庭を交いし て出入りします。


           

◆ 酒二升と軸組模型をたよりに着工
この棲み家の着工は、折りしも第一次オイルショックの前兆にさしかかった頃 で、地下工事の着手には難航しました。とても小さな現場には、生コン車 は来てくれません。セメントもなかなか手に入りません。人づてに鳶・土工の親方がセメントを仕入れたのを聞きつけ、一升瓶を二本ぶ ら下げて直談判。親方は快く引き受けてくれました。 現場に小型のミキサーを持ち込んでコンクリート工事を無事に終えてました。
その後、石油製品が極度に不足し、トイレットペーパーを求めてスーパーで延々と並んでやっと買えると云う想像しがたい時期を迎えます。

   

棲み手は、期待で胸を膨らませて棟上げ式を待ちます。ところが今度は、大工の棟梁からの相談です。木材を刻む原寸が設計図から読 みとれない。大急ぎで階段部分廻りの四層構造が分かる部分模型を造って見ました。
二十分の一 で地下と一階、中二階と二階、二階の床の構造等がこれで一目瞭然となりまし た。
模型は、設計者がデザインの過程で全体の姿、ディテールを検証するときに使 ったり、クライアントにデザインの意図を伝達するために造ります。現場では 本工事に入る前に色・形・施工手順などを決めるために原寸モデルを造る場合 もあります。一般的に住宅の場合は、模型を造ることは希ですが、作者は百分 の一又は五十分の一のモデルをスタディ用として造りました。
作者は建築の設計を業としていませんが、建築に携わる者の心得と自己研鑽を 兼ねて、ごく限られた条件の場合のみで個人宅の設計をしました。 一軒の設計に要する時間は個人差がありますが、基本設計から完成まで概ね 100〜150時間位掛かります。当時の設計図書の作成は、製図板に T型定規と三角定規を使い、夜間と休日を活用した作業は体力・気力 が勝負の世界でした。現在のCGやCADの世界でも根気が欠かせない世界だと思い ます。




◆ 家族の一体感を生み出す家

地下に1.5坪の玄関を置くことによって、この棲み家の躍動的な生活スタイ ルを演出する中二階と階段スペースを確保出来ます。 吹き抜けを持つリビング空間は、ダイニングルーム・キッチンと中二階、階段 、二階の廊下、 地下の玄関を包括した空間です。この棲み家の設計コンセプトで もあります。 全ての居室の出入口が、中央に 位置した吹き抜けのリビング空間に接することによ って、棲み手の生活に一体感を生み出します。
核家族化の傾 向が強くなってきた時期でしたので、棲み手が当設計の提案を受け入れる根拠が「家族の一体 感を生み出す家」 となりました。

「静」と「動」
住宅としては極めて大きな吹き抜けを持つこの棲み家は、種々の長所と欠点が大 きく現れます。 個室や洗面所 等への出入りは、床の高低差を利用した腰高壁の取付や格子を設け て視線を遮ることが出来ます。 照明はそれぞれの生活シーンに叶うように、リビングセット、ダイニングテーブル、中 二階部、二階通路部、一階通路部のそれぞれに、ホワイトボールの白熱灯による部分照明形式の器具を取り付けています。 昼間の包括的でダイナミックな雰囲気が、夜になると一変します。スポットライトに照ら し出された空間はアットホームな雰囲気をより一層引き立て、その場のシーンを浮きだたせてくれます。 階段の照明は、夜間の屋外からの視線を意識し、さらに内部照明のアクセントを兼 ね、ステンドグラスを使った壁付け照明としました。
音は、個室と離れの和室を除いた場所では全てを共有します。常に家族全員の気配を感じる事で安堵が生まれます。中二階でお絵かき中の子供は、キッチンで料理中の母親とテレビを見ている父親と音を通じた会話が生まれます



東側に設けた和室は、客間の伝統的な考え方を取り入れた離れの設計とし、吹き抜け空間の「動」に対し「静」を演出しています。

「地下に玄関を構えた棲み家」は、横浜の閑静な郊外住宅地の中で「家族の一体感 を生み出す家」として生まれ、今も当時の原型を維持 し続けながら新たな主役の登場で賑わっているようです。




■建築概要

 間取りを考えるとき最も重要なのが道路や隣接地に関わる敷地の条件です。間取りはラフなスケッチで間合いを考慮しながら三次元的に進めます。敷地の適切な部分に敷地の条件を考慮しながらそれぞれの前庭を配し、切り取るようにして外形を創り、内部の居室配置を計画する方法と立体的に幾つかの箱を配置してから内部の計画を進め、それぞれの箱の大きさを決めていく方法があります。図面化する前の段階でエスキースと呼ばれる方法論はこの他にもありますが設計者は独自の手法で進めます。ここでは箱を並べて構想を練る方法で進めます。中央に大きな箱を置き、それにパブリックな機能を詰め込み、両サイドの小さな箱は寝室と離れの和室を配します。大きな箱の北側に台所、洗面などの水回りを配し、その二階に個室を置きます。個室は大きな吹き抜けを介してパブリックなゾーンと前庭に接します。地下に道路と大きな箱をつなぐ通路を取り付け、通路はアプローチとなり接点が玄関と云う構造です。三つの箱にそれぞれの用途に叶った前庭が付きます。立体的な箱の配置は明確な平面的なゾーニングを得ることにもなります。
この棲み家は昭和49年竣工の建築で玄関までの地下通路は棲み家「東山」の細長いアプローチをイメージし、日常的な出入りはオープンの階段と居間の大きな掃き出しを利用します。昔の日本家屋に備えられた広縁や濡れ縁を介したご近所さんの寄りつきをイメージしてます。


所在:横浜市港南区  
敷地面積:232u  建築面積:73u  延床面積:107u 
構造:木造軸組構法、地下1階地上2階建て
屋根:カラーベストコロニアル葺  外壁:モルタル下地リシンガン吹き仕上げ、一部ラワン小巾板貼り 
軒樋:木製箱型ステンレス貼
床 :ラワン合板下地ナラフローリングOSW  壁:タモ柾合板一部布クロス貼  天井:タモ柾合板貼
設備:セントラル空調(石油ボイラー、チャンバーBOX分岐ダクト方式) ガス湯沸器セントラル給湯方式 




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